1.平成8年度は、注目している建築家Jean Boucherの18件の作品を整理し、彼の建築活動の軌跡と、それがもつ同時代における意味、さらに彼の作品の所在地・建設年と共同設計者との関係などについて考察した。そしてその考察結果を、1996年度の日本建築学会大会において発表した。その発表の主旨は、Jean Boucherが同時代における最も多産な建築家の一人であり、しかも最も典型的にアール・デコ的な建築家であったこと、および、地区ごとに共同設計者を擁して活発な設計活動を行っているけれども、そのスタイルには一貫したものが見られ、どの作品にも彼の意図が貫徹されていることである。 2.現在までのところ、Jean Boucherの1934年以降の作品は見つかっておらず、もしこの頃に亡くなったか引退したものとすると、1960〜70年代の生まれと考えられるが、逆に1925年以前の作品についても知られておらず、また1860〜70年代生まれの世代が最もアール・デコ的な作品を残したこともやや不自然だと思われ、あるいはもっと後の世代に属するとも考えられる。最近、ル-アンにFonds Jean Boucherなるものがあることを知った。これは1990年につくられたもので、ル-アンの街の戦後再建に関わった建築家Jean Boucherの資料を寄贈により未整理のまま所持しているもののようである。このBoucherとアール・デコのBoucherとが同一人物かどうかを確認するため、資料の入手を計っているところである。
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