1.平成9年度も、建築家Jean Boucherの経歴と作品についての研究を継続した。まず、彼の経歴については同時代の著名な彫刻家にして建築家・装飾家でもあった同姓同名の人物とフランスにおいても混同されており以下のことが判明したのみで、結局のところ、はっきりはしない。すなわち、彼の建築家としての資格はフランス建築家協会から与えられているが、これは概ね建築の専門教育を受けない独学の建築家を意味すること、また建築家としては珍しく法学博士の学位を持っており、これは彼がそうした法律の知識を生かした半ばデヴェロッパー的な存在であったこと、以上である。なお、昨年からの懸案であったル-アンのLe Fonds Jean Boucherの現地調査を今夏行ったが、このル-アンの同姓同名の建築家はル-アンで生涯を送った一地方建築家であり、彼もまた残念ながら別人であった。 2.Jean Boucherの作品については、大幅に情報が増えた。これは、現在刊行準備中の図書『19-20世紀パリ建築家辞典』(19世紀分4巻は既刊)の著書Anne Dugast氏からパリ歴史図書館を通じて提供されたもので、それによると、Jean Boucherは1911年から1932年まで、パリ市内に67の建物を設計している。また、パリに接するブ-ロニュ=ビヤンク-ル市にも3棟の建物を設計しており、その3棟については図面も見ることができた。これらの知見を、1998年度の日本建築学会大会での発表をはじめとして、順次公表していく予定である。
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