本研究は、近世・近年フランスの建築理論における「構成」概念の分析であった。中軸をなしたのは、当時の重要な理論家カトルメール・ド・カンシーである。カトルメールが著わした大部の著作『分野別百科全書・建築編』(1788-1825、パリ刊、全三巻)に見られる「構成」概念-ディスポジシオン、ディストリビューシオン、コンストリュクシオン、ストリュクチュール、コンポジシオン、コンセプシオン、オルドナンス、コンビネゾン、エコノミーの記述をとおして、これより、1800年前の古代ローマの建築理論家マルクス・ウィトルウィウス以来の建築理論の近代的解釈の分析が試みられた。ウィトルウィウスによる六つの建築造型原理、さらには強・用・美という三つの立脚点(三原理)が近世・近代のフランスでどのように継承され変貌を遂げたかが解明された。このとき従来「経済」という訳語でしか捉えられてこなかったエコノミーなる語の分析が、「構成」概念の分析にとってはもっとも重要であることが指し示された。これを受けて、カトルメール・ド・カンシーの同時代の建築理論家ジャン=ニコラ=ルイ・デュランの『建築講義要録』から、エコノミー概念が詳細に分析された。デュランはウィトルウィウス流の古典主義理論からの解放を目論み、建築造型原理の重要な核的要素として、エコノミー概念を規定したのであった。こうしたデュランの「構成」概念としてのエコノミーの捉えかたから、エコノミー概念が「美」の原理にも繁がることを発見したのは、大きな成果であったと言える。そして、現代の哲学者ミシェル・フ-コ-の言説(ディスクール)理論の解明を拠り所として、このエコノミー概念が建築の言語をも統御する、中心的な構成概念であることが明確にされたのである。
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