予定していた調査はほぼ順調に実施できた。調査を行った主要な建物は、旧松浦炭鉱事務所(長崎県世知原町 大正元年)、若松石炭会館(北九州市若松区 明治38年)、旧三菱合資会社長崎支店唐津出張所(唐津市 明治41年)、百円坂倶楽部(田川市 明治34年)、高取家住宅(唐津市 明治20年代末、明治39年増築)である。 旧松浦炭鉱関係では旧所長住宅・旧倶楽部と事務所の小屋組の調査を行った。陸梁に「大正元年九月架」と「佐世保諸機械製作所」のプレートがあることを確認した。従来明治45年の建築と言われているが、大正元年9月に上棟されているため年代を訂正する必要がある。また、5枚の設計図があることを確認した。住宅・倶楽部、事務所の建築・設計図について産業考古学会と日本建築学会九州支部で口頭発表を行った。 百円坂倶楽部は現在750m^2を越える大規模建築であるが、当初は明治34年の接待所と明治35年建設の事務長社宅からなり、別々に建っていた建物であることを明らかにし、当初の状態に復原し、変化を明らかにした。これらのことについて日本建築学会九州支部で口頭発表を行った。 高取邸は明治20年代末に建てられ、明治39年に能舞台を有する奥二階が完成した。昨年度調査した旧堀三太郎邸(明治31年)同様最も古い炭鉱主の住宅の一つであるが、筑豊の炭鉱主の住宅とは異なる点が見られる。 本研究は近代化を支えた一つの柱である炭鉱に関連する施設を体系的にとらえ、それが近代化に果たした役割を考察し、各建物の建築的評価を明らかにしようとする研究である。福岡・佐賀・長崎の3県にわたって調査を行い、各建物の建築的評価を明らかにしたと考えている。炭鉱関連施設は徐々に姿を消しているため、可能な限り今後も継続して調査を実施していく予定である。
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