X線回析によるひずみ測定、TEMによる微細構造の観察、ブリルアン散乱とレーザー曲率法による弾性定数の測定は当初の計画どうり遂行された。DCマグネトロンスパッタリングによって作製されたSi基板上のMo薄膜は、界面に平行方向のひずみが圧縮であり、面内で等方的であった。垂直方向のひずみは引っ張りであり、ポアソンの関係を満足した。レーザー曲率法から求めた二軸弾性定数は、面内の大きい圧縮ひずみに対応して、バルク値より30〜40%大きい。また、ブリルアン散乱法によって求めた焼鈍前のせん断弾性定数はバルク値より25%小さい。さらに、ひずみは300℃における焼鈍によって減少した。この変化に対応して、弾性定数も焼鈍によってバルク値に近づいた。TEMによる微細構造の観察の結果、焼鈍による顕著な変化は結晶粒の成長であり、界面相の形成や、合金化などはSi上の自然酸化膜によって抑制されていることが明らかになった。このことから、弾性定数の変化は主にひずみの変化によることが判明した。また、焼鈍前の弾性定数がバルク値と異なる理由は、弾性ひずみが大きいことによる非調和効果に起因すると思われる。今後、Moのポテンシャルを用いて弾性定数のひずみ依存性を計算し、非調和効果の定量的な解析を行うとともに、実験結果との対比を行う。
|