研究概要 |
我々は従来炭素濃度(0.04〜0.69wt%)の異なる炭素鋼の種々の温度(550〜400℃)で生成した上部ベイナイトの透過電子顕微鏡観察を行い,上部ベイナイト変態機構を以下のように考えた.“母相オーステナイト中で炭素濃度の揺らぎにより局部的に低炭素領域が形成し,その領域のMs点が等温保持温度まで上昇したときマルテンサイト的に核生成する.核の周りの微小領域のMs点も同様に炭素濃度の揺らぎにより等温保持温度まで上昇したときマルテンサイト的に成長する." 本年度の成果は以下の通りである. 1.上で仮定した炭素濃度が揺らいだ領域の大きさが溶媒原子数(Fe)で1200程度であれば全ベイナイト変態温度域(550〜300℃)にわたってそのような揺らぎが実現可能であることを統計熱力学的計算により示した. 2.上部ベイナイトから下部ベイナイトへの遷移は350℃一定温度で起こることが従来より知られていたが,遷移の起こる理由については不明のままであった.この点に関し上記ベイナイトの核生成・成長モデルから,ベイナイトが核生成・成長する時の炭素濃度がラスマルテンサイトを形成するような時はラス状の,つまり上部ベイナイトとなり,プレートマルテンサイトを形成するような時はプレート状の,つまり下部ベイナイトとなるのではないか,という着想に至り,それを実証した. 本研究成果は単に上部ベイナイトから下部ベイナイトへの遷移の理由を明らかにしたのみならず,ベイナイトの核生成・成長メカニズムの一端が解明されたことになり,学術的意義は高い.
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