高強度鋼の遅れ破壊が環境変動によって促進されることをプリストレスドコンクリート(PC)鋼棒について明らかにした。環境因子として荷重及び水素添加ポテンシャルを取り上げ、最大荷重あるいは電解電流値を一定にして変動させた。環境変動の効果は、低歪み速度の引張り試験と定荷重の遅れ破壊試験の両方で確認した。環境変動の効果は水素の吸収速度や吸収量には影響を与えず、荷重変動の効果が試料表面の保護被膜の破壊によるとする従来の考えでは説明出来ない。水素添加ポテンシャル変動の場合も水素の吸収及び放出速度の解析から水素の拡散速度を求め、水素添加ポテンシャル変動の効果は受けないことを示した。 環境変動の効果を水素の存在状態から調べるために、鋼中に吸収された水素の加熱放出特性を測定した。約100℃に放出ピークを持つ弱くトラップされている水素には、塑性変形に伴なって増加する水素と、もとの組織中の析出物などにトラップされている水素とがある。塑性変形跡に200℃での低温で回復処理を与えた試料に水素を吸蔵させて放出特性を調べることにより、塑性変形に伴なって増加する水素のトラップサイトは点欠陥であり、昇温過程で点欠陥が消滅するために水素が放出されることを明らかにした。荷重変動の効果は、回復処理で消滅する点欠陥密度を増加させることにあることを見出した。これらの結果から、水素脆性の機構は塑性変形によって導入される点欠陥を安定化してその密度を増加させるためであり、環境変動はこの効果を強調するものであるという新しい考えを提出した。
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