スロースキャンCCDカメラを装着した400kV透過電子顕微鏡を用いて、有機分子TPA(tetraropylammonium)をゲストとして包接したゼオライトMFIの高分解能電顕像及び電子回析パターンを撮影し、それぞれについての定量的解析結果を報告されている構造モデルと共に比較検討した。高分解能電顕像からは、ゼオライトチャンネル中に存在するTPAと考えられるコントラストが観察された。この種のコントラストは電子光学的な結像条件によって現れる「為物」との識別が困難であることが知られており、これまでごく限られた観察結果が報告されるのみであったが、本研究ではコントラストを形成する電子線強度を定量的に評価することにより、為のコントラストとの識別を行い、チャンネル中に確かにTPAが存在していることを示すことができた。高分解能電顕像の解析からゼオライトチャンネル中の有機分子を捉えたのはこれが最初である。TPAの占有率は約50%と見積ることができたが、これは電子回析強度の定量解析から求められた値にほぼ一致した。電子解析強度の評価にはR因子を適用し、構造モデルとの定量的比較を行った。これらの結果をまとめ、学術誌に投稿した。また、測定、解析用のコンピュータに改良(メモリーの増設など)を行い、連続的な画像取り込みやイメージングプレートからの大容量の画像取り込みに対応できるよう改善した。更に、現在本研究を遂行するうえでのひとつの課題となっている回析波の位相決定の問題に関し、汎用型の直接法プログラムを用いた予備的な解析(計算強度によるシミュレーション)を行った。その結果、複数方向からの入射による回析強度をうまく統合することができれば、直接法の適用が可能であることが示唆された。
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