前年度の研究に引き続き、既知の結晶構造を有する各種のゼオライトフレームワークについて、電子回折強度のフーリエ解析を行い、X線構造解析によって得られた結晶構造との比較検討を行った。回折強度の測定には前年度から使用しているスロースキャンCCDカメラを装着した400kV透過電子顕微鏡に加え、超高圧電子顕微鏡(1250kV)を用いて、イメージングプレートによる回折強度・高分解能像の記録を行った。これまでの研究経過から、解析精度を向上させるためには動力学的回折の寄与を検討する必要性が生じたことから、動力学的効果についても検討を行った。特に、典型的なゼオライトの一つであり、最も低密度のフレームワーク構造を持った部類に属するFAUについて動力学的回折強度の計算と実験値との比較を行った。その結果、加速電圧400kVを仮定し、フレームワークのみの場合、ゲスト物質を導入した場合などについて回折強度の厚さ依存性を計算すると、低散乱角領域(<0.5Å^<-1>)の反射では厚さ300Å付近まで相対強度に大きな変化(厚さによる効果)は見られなかった。実空間においては、この領域の反射はちょうどフレームワークの「高次の」構造(結晶空隙の規則配列など)に相当することがわかった。一方、フレームワーク中にゲスト物質を導入した場合にはこの低散乱角領域の回折強度分布は顕著に変化する。従ってゲスト物質の配置やこの空間周波数(<0.5Å^<-1>)に相当する分解能での構造については、ゲスト導入前後の回折強度を運動学的近似に基づいて解析し、差フーリエ合成を行うことによって決定することが可能となる。これに対して、>0.5Å^<-1>の高散乱角側、すなわちSi-O結合などの「低次の」構造に相当する部分は回折強度の厚さによる変化が大きく、厚い試料での解析には注意を要する。これらの解析結果をもとに、未知試料への応用例としてFAUにMoS_2クラスターを導入した試料について導入前後の試料で回折強度の解析を行った。両者の強度分布には明らかな差異が見られた。フレームワークのみの構造モデルから移相を仮定してフーリエ合成を試みると、結晶空隙内部にポテンシャル分布の差が現れた。その分布は粉末X線回折パターンのリ-トベルト解析結果と定性的に一致することがわかった。
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