カーボンナノチューブは炭素電極を用いた直流アーク放電法や炭化水素の気相熱分解法により合成できる。しかし、どちらの方法においても均一な径と長さのナノチューブを選択的に得ることは簡単ではない。われわれは、均一なナノメータースケールの直線状細孔をもつアルミニウム陽極酸化皮膜を鋳型として利用すれば均一なサイズのカーボンナノチューブが得られることを見いだした。 アルミニウム陽極酸化皮膜は膜面に垂直で均一なナノメータースケールの直線状細孔が多数貫通しており、陽極酸化時の電解条件を変化させることで細孔径、細孔密度、細孔の長さを容易に制御することができる。われわれは、このような制御された直線状細孔を鋳型として利用することでカーボンナノチューブの合成を試みた。まず、陽極酸化皮膜を石英反応管に入れ、高温(800℃)でプロピレンを流した。プロピレンはこの程度の温度になると気相炭素化を起こし、熱分解炭素として陽極酸化皮膜の表面および細孔内壁に堆積する。その後、フッ酸処理で陽極酸化皮膜を溶解除去して細孔内の炭素を取り出した。その結果、本法により選択的にカーボンチューブのみを合成することができ、しかもチューブの径、長さおよび厚さは鋳型となる陽極酸化皮膜の細孔径、厚さおよび気相炭素化時間を変化させることで制御できることが明らかとなった。 細孔径30nmの陽極酸化皮膜から得られたカーボンナノチューブの高倍率の透過電子顕微鏡像から、チューブの壁の厚さは10nm程度であり、その内部では短く細い筋が波打ちながらチューブ軸と平行に積層しているのが観察できた。この筋は炭素六角網面1層に対応しており、このカーボンナノチューブは微細な炭素六角網面が円筒状に積層してできたものであるとことが明らかとなった。
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