ホットウォール法により、GaAs (100)基板上にエピタキシャル成長したZnS : Mn、CdS : Mn、CdTe : Mn薄膜およびCdS : Mn-ZnSおよびCdTe : Mn超格子を作成し、電子スピン共鳴(ESR)法によりマンガンの周りの局所歪を究明した。そしてそれらの発光特性との関連を追求した。 薄膜については基盤との格子不整合によって引っ張り歪を受けるZnS : Mnの場合、ESRスペクトルパラメータ(g値、超微細分裂定数、ゼロ磁場分裂定数)はバルク結晶の場合と同じであったが、5000Å以下の膜厚のときゼロ磁場分裂線が幅広くなることを見出し、これが膜内部に生じた歪の影響であると推定した。ところがその紫外線励起発光の波長はほとんどバルク結晶の場合と同じであることが分かった。圧縮歪を受けるCdTe : Mn薄膜の場合にも同様な傾向が認められた。 超格子の場合にはg値および超微細分裂定数がバルク結晶の場合とは著しく異なった。CdS : Mn-ZnSの場合にはg値は小さくなったが、超微細分裂には変化がなかった。一方、CdTe : Mn-ZnSの場合にはg値がちいさくなり、それと同時に超微細分裂定数が大きくなった。この違いはCdTe : Mn-ZnSはCdS : Mn-ZnSに較べて格子歪が大きいことに由来する。後者の場合のg値および超微細分裂定数の変化歪がMn-T結合のイオン性が増加させ、結晶場が異常に強くなったことを意味する。また、バンドギャップの変化もESRスペクトルによって明らかになった。バルク結晶や薄膜では伝導体の電子との相互作用で室温のスペクトルは幅広く、弱い共鳴であるが、超格子ではCdTe層のバンドギャップが広がったことを示唆する鋭く強い強度の共鳴が観察された。これらのことは室温での赤色発光を説明する。 以上のようにESR法によって薄膜と超格子における発光現象の違いが、内部歪に起因するものであることを明らかにした。
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