1 熱時効処理:原子力発電の操業温度300℃にごく近く温度である350℃で10000時間までの熱時効処理を終えた。これは本邦での最長記録であるが、2相分離反応はまだ80%までしか進行しておらず、完了までにはさらに10000時間が必要と予測され、研究を継続する。 2 2相分離の機構:2相ステンレス鋼中のフェライトは30%程度のCrを含有し、この組成はFe-Cr-Ni3元状態図でスピノ-ダル線近傍に位置するため、フェライトは350〜450℃での熱時効によりスピノ-ダル分解で相分離することをメスバウアースペクトルのコンピュータ解析で確認した。この結果から、加圧水型原子力発電の一次冷却水温度である320℃ではスピノ-ダル分解が起こると予測される。フェライトCr濃度の時効時間・温度依存性から求めた2相分離の活性化エネルギーは約190kJ/molで、CrまたはFeの体積拡散の活性化エネルギーに近いことを確認した。 3 2相分離生成相:フェライトは長時間時効により相分離して最終的にCr富化α'相とFe富化α相を生成する。450℃時効でのそれぞれの相のCr含有量は85および10原子%で、計算状態図とほぼ一致することをメスバウアー分光法で確認した。 4 経年劣化:(1)延性低下:シャルピー衝撃エネルギー値は未時効状態の220kJから10000h時効後は半分以下に低下し、脆化が起こる。この脆化をもたらす直接の原因は2相分離で生成するCr富化α'相と考えられる。(2)硬度増加:フェライト相の硬さは2相分離で生成するCr富化α'相の体積分率に比例して直線的に増加するが、オーステナイト相の硬度は変化しない。(3)耐食性:Fe富化α相の生成により耐食性は低下する。電気化学的方法で測定される再活性化ピークは2相分離反応が80%程度進行した段階で現れるので、非破壊的検出法として利用するには検出精度をあげる必要がある。 5 寿命予測:シャルピー衝撃エネルギー曲線は双曲線関数で近似でき、その時効温度・時間依存性から延性寿命が予測できる。延性の保証限界をシャルピー衝撃エネルギーの30Jと仮定するとCF3M規格の2相ステンレス鋼の300℃での寿命はおよそ50年と予測される。
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