フラーレンにLiやNaをドープした擬似原子とも呼ぶべき新しい分子は、安定な高温超伝導体となる可能性があるため、大いに期待されている新物質である。我々が独自に開発した混合基底第一原理分子動力学により、このドープ過程をシミュレートした。その結果、5eV程度の初期運動エネルギーを持つLi原子は直接C_<60>に挿入可能であること、Na等のより重い原子は衝突時にケージを壊してしまうので直接挿入は不可能であり、複雑な過程を経て再生することが示された。 多数のフラーレンを各種基板上に整列させたナノスケールの構造体は、超高密度のメモリー素子としての可能性を持つ夢の新素材である。本所の桜井研究室で行なわれた多数のC_<60>をGaAs表面に整列させた物質に対する走査トンネル顕微鏡実験結果を分子動力学法によって解析し、観測された特徴的な2個ずつのペア構造を再現することができた。この構造は、1個のC_<60>の安定吸着位置から予想されるものとは異なり、C_<60>の幾何学的大きさとの兼ね合いで決まる。整列過程は実験では全く観測不可能なナノ秒の時間で起こる現象であり、本シミュレーションによって始めて手に取るように明らかにされた。 同様に本所の走査トンネル顕微鏡実験によるCu表面に整列したC_<60>とC70の混合体の示す特徴的なパターンを、我々の混合基底第一原理バンド計算法によって解析し、それがLUMO及びHOMOバンドに対応するものであることを明らかにした。
|