研究概要 |
本研究ではまず、キューリ-温度が150K(バルクの約2倍)の薄膜状酸素欠損型EuOを再現性よく合成する技術を確立した。そのためには、酸素を基板上に直接吹き付け、かつ基板温度を適切に選択することにより反応を速度論的に制御することが必須であることを示した。次にFe,Eu,そしてO_2を同時に蒸着、吹き付けすることにより、金属強磁性体,Fe,中にEuOを分散させたグラニュラー薄膜を合成することに成功した。この際も、基板温度等の生成条件が重要で、200℃ではアモロファス状のFe-EuO混合相が生成するが、基板温度を300℃以上とすることによりFe/EuO二相膜が安定生成することを示した。一方、磁気的挙動と構造との関係においては、EuOのキューリ-点以下で、鉄の原子の磁気モーメントとユーロピウムの磁気モーメントとが、非平行に配列していることを明らかにした。 また、互いに非固溶のFeとEuを同時蒸着にすることにより非平衡合金薄膜を作成した。FeとEuは液体状態でも混ざらないがこの方法によれば過飽和固溶体ができることをX線回折および電子顕微鏡を用いて示した。この合金の磁気的性質に関してFe高濃度側ではフェリ磁性を示す一方、Eu高濃度側では、Eu本来のらせん構造がFeの存在によって乱され、磁化曲線にヒステリシスが現われることを示した。さらにこのように作られた薄膜の磁気抵抗のうち縦方向の磁気抵抗(L-MR)の不可逆部は正の値をとるが横方向の磁気抵抗(T-MR)の不可逆部は負であることを示した。今後、このような特異な磁気抵抗挙動がEu固有のらせん構造が遷移金属原子のモーメントによって直接、乱されたことに起因するのか、あるいは遷移金属を固溶させることにより、Euモーメント間の交換相互作用が弱まることに起因するのかを明らかにしていく予定である。また同時に、高分解能電子顕微鏡を用いてこれらの非平衡薄膜の構造と磁気抵抗の関連を調べている。
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