第1年目は、セル試作に備えた基礎物性を重点的に研究を行なって来た。まず、電極と溶液が接触する電気化学系のインピーダンスをRandlesの等価回路により実験データの解析から電気化学的な側面からは、以下のような事が明らかになった。溶液抵抗Rsolnを電気伝導率(L)へ換算したものは、時間の経過と共に減少していき、水溶液中ににおけるイオン数の減少や、ゲルネットワークが形成されることによりイオン移動度の制約されている事が明かとなった。このH^+の極限イオン導伝率と測定したpH値によってLを見積り、インピーダンス法で求まったLとの比較を行った結果、導伝率の減少は、水素イオンの減少に起因することも明かとなった。また、インピーダンス法で求めた電気伝導率の時間微分dL/dtの時間変化は、ティルティングテストによって決定されたゲル化時間(tg)付近まで急激に増加し、その後ある一定値へと漸近していく傾向がみられ、その前後におけるdL/dtの変化の違いは、初期のネットワークが全体につながっていく過程とゲル化時間以降においてネットワークが熟成していく過程という機構の違いによると考えられる。上に述べた結果は、物質探査の立場から非常に重要な示唆を与えている。フォトクロミズム矢エレクトロクロミズムの反応のためには、溶媒中の水素イオンの存在が不可欠である。上述の結果は、何も添加しないタングステン酸のゲル化ではフォトクロミズムやエレクトロクロミズムにとって重要な水素イオンが減少してくることを示している。PEG、PVA等の水溶性水溶性高分子は、半導体表面における光化学反応により生じたホールと反応する事により水素イオンを生じることが知られている。この事は、(当初相溶性・生成物のフォトクロミズム増感の観点のみからこれらの水溶性のものを用いる事を計画していたが、)水素イオンの補充という面から見ても予想以上に水溶性高分子を添加する事が重要である事を示している。また、フォトクロミズムは、分子量で増感の度合いが大きく変化という予備的な知見も得ている。これまでの結果から現在までの段階では、添加物としては水溶性のしかも比較的分子量の小さいものが適当であろうという予測をしている。
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