1.遷移金属のチタンへのコーティング:チタン板上に真空蒸着により遷移金属(ニッケル、クロム、鉄、モリブデン、タンタル、タングステン、亜鉛)を蒸着した。走査型電子顕微鏡による形態の観察その際、ピンホールがなく、均一な析出状態の膜を得るための最低膜厚は1ナノメートルで良いことが解った。逆に、200ナノメートル以上蒸着すると、蒸着時に膜中に発生する応力により、亀裂が発生することが明らかとなった。 2.熱酸化実験と表面のキャラクタリゼーション:それぞれの遷移金属を20ナノメートル真空蒸着したチタン板を急速酸化実験用電気炉を用いて1気圧の酸化雰囲気中で熱酸化し、それを光電子分光分析、X線回折によって分析した。タンタル、モリブデン、タングステンなどの高融点遷移金属を蒸着した試料を熱酸化によって酸化物に転換させるためには加熱温度を800℃以上、昇温速度を毎秒10℃以上にする必要がある。一方亜鉛のような低融点遷移金属の場合、毎秒1℃以下で昇温し、金属の融点より50℃以上低い温度に保持して母相のチタンへの金属の拡散を促進した後、600℃以下で酸化すべきであることが解った。生成相は亜鉛を蒸着・熱酸化した場合にはチタンとの複合酸化物であり、それ以外の場合には遷移金属が置換固溶した酸化チタンが生成した。 3.光電気化学特性の評価:キセノンランプ照射下でのアノード分極実験から、酸化チタンよりも大きな光電流が得られたのは、ニッケル、タンタル、タングステン、および亜鉛を蒸着・熱酸化して得られた酸化物であった。混合酸化物が生成する場合には光電流の立ち上がり波長は酸化チタンと等しく光量子収率は30%以下であったが、複合酸化物が生成する場合には(亜鉛)立ち上がり波長は長波長側にシフトし、収率は90%以上となった。以上の結果から、亜鉛を蒸着、熱酸化して得た酸化物は、光アノード電極として適当である事が明らかとなった。
|