鉄基多元系合金においては、その凝固中に初晶δ相と未凝固融液が包晶反応を起こし、両者の界面にγ相が生成する。液相とδ相とγ相では溶質元素の溶解度が異なるため、包晶反応中に溶質元素が上記三相間で再分配される。その結果、材料性質に悪影響を及ぼす偏析が生じる。本研究では、液相とδ相およびγ相の間で、炭素、珪素、マンガン、燐、硫黄、アルミニウムの鉄鋼成分が包晶反応中にどのように分配されるかについて、実験により調査している。その方法は、炭素鋼(0.19%C、0.23%Si、0.52%Mn、0.018%P、0.011%S、0.030%Al)を溶解した後に毎時2℃で冷却し、包晶反応途中の温度から急冷した試料について、液相からγ相を通ってδ相に至る範囲にわたり、EPMAを用いて元素分析するというものである。各元素の濃度分布は、以下のようにまとめられる。 1)炭素:包晶反応の進行を律速する元素であり、反応中、液相からγ相を通ってδ相に拡散する。その濃度は液相中で最も高く、γ相、δ相の順で続く。 2)珪素:凝固偏析のため液相に濃縮するが、固相内ではδ相よりもγ相内で濃度が高い。 3)マンガン:液中への濃化は珪素ほど激しくはないが、ある程度凝固偏析する。δ相内の濃度はきわめて低いが、γ相内では、δ/γ界面からγ/融液界面に向けて濃化する。 4)燐:激しく凝固偏析し、液相内の濃度はきわめて高い。δ相とγ相の間で、濃度の差は認められない。 5)硫黄:凝固偏析の激しさは燐どではない。δ相内よりもγ相内で濃度が高い。 6)アルミ:他の元素とは異なり、δ相内で最も濃度が高く、次いでγ相、液相の順で続く。Fe-Al二元系平衡状態図によると、非常にわずかではあるが、凝固偏析する。それにもかかわらず、液相中の濃度が最も低くなることはとても興味深い。
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