研究概要 |
1.研究の目的:合金の凝固プロセスを制御するためにはその凝固パスを正確に知る必要がある.本研究では,熱力学計算と固相内拡散の計算とを組み合わせた方法により、Fe-Cr-Ni三元系合金の凝固パスの数値解析法の確立を目的とし,その計算アルゴリズムおよびFORTRANによる凝固パス解析の汎用プログラムの開発を行った. 2.解析方法:異相界面での局所平衡を仮定し,各相の自由エネルギーを近似する熱力学モデルとして準正則溶体近似を用いた.板状のVolume Elementを固液共存層内に想定し,熱力学計算から求まる固液界面平衡濃度を境界条件とし,限定した固相内拡散をCrank-Nicolsonの陰解法で逐次数値計算することにより求めた。Fe-Cr-Ni系の凝固過程で生じるδ-γ変態は,拡散律速に従うと仮定して計算を行った.各方程式を差分方程式に変換し,逐次時間ステップでの温度変化,固相率変化、液相と固相内の溶質濃度変化を計算した. 3.結果:本解析により得られた結果を要約して以下に示す. 1)固相内拡散のないモデルでは,Fe-18%Cr-8.5%Ni合金の凝固過程でδ晶が初晶として晶出し,続いてγ晶凝固へと推移する。しかし,凝固末期に再びδ晶が晶出する.これは、Fredrikssonらの実験結果と一致する。 2)Fe-18%Cr-8%Ni合金のδ-γ変態は基本的に拡散律速によるメカニズムと思われる.しかし,主としてCrの拡散によって律速するとして解析すると実験結果との良い一致が得られた. 3)限定した固相内拡散を考慮した解析により得られた。Fe-18%Cr-8%Ni合金の温度と固相率の関係は固相内拡散のないモデルと平衡モデルとの間に位置し,試料の冷却速度が小さい場合には平衡モデルに,大きい場合には固相内拡散のないモデルの結果に近づき,本研究で開発した解析法が妥当であることを示した.
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