研究概要 |
計画では、電解酸化により鉛を化成することを想定していた。ところが、水晶振動子上に蒸着できる試料薄膜の厚さは100nm程度に過ぎないことから、電解時に発生する酸素の応力に耐えられず、剥落するという問題を生じた。そのため、鉛バッテリ-製造にたずさわる研究者と協議の上、空気酸化による鉛の化成処理へと研究内容を一部手直しした。しかしながら、水晶振動子マイクロバランス法による研究では、他の測定手法では期待できない高感度をもって、室温近傍における高純度鉛と再生鉛の酸化挙動の相違を追究することができた。その結果、以下の新たな知見を得ることができた。 (1)高純度Pbと、数10ppmの不純物元素を含む再生Pbの酸化挙動を比較すると、再生Pbの酸化速度が高純度Pbのそれを上回り、微量不純物元素に酸化を促進する傾向を示す。 (2)再生Pb中に共通して多量に存在する不純物元素Bi、CuおよびSnのいずれもが、Pb薄膜の酸化速度を増大させる傾向を有する。このうち、Cuは再生Pbの濃度範囲である50ppm以下の添加では酸化速度への影響は微弱であるが,Sn添加では濃度50〜100ppmで酸化速度を大きく増大させる。 (3)XPSおよびAESなどの表面分析より、Pb薄膜試料は酸化により表層にn型半導体PbO_<2-x>を生成することは明らかである。さらに、酸化物層の化学結合状態から、酸化速度に対する不純物元素の影響を原子価制御の原理にもとずいて説明できる。
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