本研究の初年度である今年は、イオン化成膜の基礎データを得るため、TEOSのイオンクラスターを発生する流通型イオン化CVD反応装置を作製した。本装置は、Am-241α-線源を用いたイオン化部と、赤外線炉で加熱する反応部より成る。TEOS蒸気を含む気流は、イオン化部から反応部に流されるが、イオン化部入り口と反応部出口にはメッシュ電極が、取付けられており、流れ方向に電界がかけられている。イオン化部でイオン化されたTEOS蒸気は、オゾンと混合された後、反応部に導入され、電界により反応炉内を飛行する。TEOSイオンの反応時間は、この電界強度を変えることで、反応炉内の熱対流の影響を受けることなく、任意に制御することができる。流通型イオン化CVD反応装置内で生成したクラスターの粒度分布を静電粒径法とTEM観察で、化学構造をFT-IRで解析した。クラスターの粒度分布は、反応時間やオゾン濃度には依存しないが、反応炉温度により複雑に変化した。60℃で発生したクラスターは温度ととも成長し、150℃で最大値に達した後、縮小し300℃で最小になり、再び増大した。クラスターのFT-IRスペクトル調べたところ、化学構造は温度、反応時間、オゾン濃度に依存した。反応温度が150〜300℃ではOH基およびOR基が減少し、300℃で最小値に到達し、300℃以上ではほとんど変化しなかった。同じ条件下で形成した膜をSEM観察し、得られた膜の形状とクラスターの構造と比較したところ、300℃で生成されたエトキシ基が多く残るクラスターが発生するとき、流動性の高い膜が形成することがわかった。また、この膜のFT-IRスペクトルは、OHおよびOR基の吸収が少なく、不純物の少ない高品位のSiO_2膜であることを示した。
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