本研究は、金属酸化物表面の塩基サイトへの、珪素求核剤の一つであるハロシラン類の吸着・配位作用を利用し、珪素上のハロゲン原子の求核性を高め、エポキシドとの反応により効率的、高選択的にハロヒドリンを合成する新しい反応様式を確立する目的で行った。既に今まで行ってきた研究で最も高い触媒活性を示すことが判っている酸化マグネシウムを塩基性金属酸化物として用いて、ハロシラン(R_3SiCl)のもつ置換基Rの効果を調べるために、アルキル基、アルコキシ基を選び、種々の非対称置換エポキシドとの反応をヘキサン溶媒中で行った。その結果、メチル基をもつMe_3SiClの場合には、非対称エポキシ環の置換基数の多い炭素上に、また、エトキシ基をもつ(EtO)_3SiClの場合には、逆に立体障害の少ない炭素上にそれぞれ塩素原子が導入されたクロルヒドリン誘導体を位置選択的に生成することを見いだした。特に、(EtO)_3SiClを用いたクロルヒドリン合成法は、従来報告されている方法に比べて、塩素原子導入位置に関する選択性が格段に優れていることが特徴的である。しかし、ヘキサン中で、立体障害の大きい多置換エポキシドに対して反応速度が遅くなる欠点を改善するために、ヘキサンを用いず無溶媒反応条件下で同様の反応を行うと、反応速度が数十倍速くなるだけではなく、開環位置選択性もより高くなることを見いだした。さらに、本手法をエポキシドの替わりにオキセタンに適用すると、開環反応が同様に誘起され、γ-クロロアルコールを収率良く与えることも確認した。従って、本反応様式は新しいハロヒドリン誘導体の合成法として、活用が期待される。
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