炭素担持白金-ルテニウム微粒複合金属触媒は、基質2-プロパノールでようやく湿潤した状態にしておき、沸点以上の温度で還流加熱すると、外部熱源と液相バルクの間に設置されるため固液界面に温度勾配が生じ、反応生成物吸着種の脱離は促進され、脱水素反応速度は増大することが明らかとなった。還流冷却器から液滴として供給される2-プロパノールに富んだ反応溶液は、炭素顆粒(7μm径)上に分散するPt-Ru固溶体微粒子(2nm径)表面に到達し、そこで2-プロポキシド吸着種と水素吸着種に解離するのであるが、そのとき活性サイトにあるアセトン吸着種の脱離を助ける(induced desorption)ものと考えられる。固体触媒量/基質溶液量比を適切な値に選ぶと、反応器壁温度と沸点との中間温度で触媒反応は進行し、それが反応速度定数の増大とアセトン阻害定数の減少をもたらすことが確かめられた。このように、脱水素触媒を液膜状態におくことによって、反応進行は極めて有利になることが明らかとなった。 2-プロパノールを沸点程度の低品位熱でアセトンと水素に変え、蒸留分離のあと、ΔG°=0となる202℃(turning temperature)程度で水素化熱を回収し、循環するケミカルヒートポンプは、パイロットスケールプラントですでに実証済である。脱水素-分留-水素化のサイクルがそれぞれ平衡になるまで進むサイクルでは、プロセスシミュレーション解析の結果を含め、熱効率は10%と指摘されている。ヒートポンプ熱効率の向上のためには、脱水素と分離過程のエクセルギー効率を高めることが必須の条件であり、液膜型脱水素触媒反応方式はその目的によく適合すると考えられる。 シクロヘキサンからベンゼンと水素を得る触媒反応についても、同様の結論が得られた。遠隔地間の水素輸送媒体として、シクロヘキサン-ベンゼン対の可能性は、改めてクローズアップされるものと期待される。
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