沸騰加熱条件下、基質溶液量を炭素担持金属触媒に対し充分小さくとって有機化合物の脱水素反応を行うと、触媒は懸濁状態から液膜状態と呼ぶべき新しい特性を発揮するあり方に移行する。そこでは、(1)基質溶液相からの蒸発速度が低下する。(2)炭素担持金属触媒層の温度が上昇する。(3)溶液相バルクからばかりでなく、炭素担持触媒粉体からも激しく気泡が発生し、それに伴って、触媒表面からの反応生成物種の脱離が促進される。(4)気泡中の気相組成と溶液バルクの液相組成の間で気液平衡を成立させるだけの時間的余裕なしに、気泡は液相(液膜)を通過し、生成物に富む気体が気相に加わる。(5)凝縮性の有機化合物と水素は冷却によって分離するうえ、水素が沸騰する液相に再び溶け込むことはないので、触媒表面における化学平衡は脱水素の側に有利に偏よる。(6)凝縮し温度の低い基質は吸着し易く、触媒表面での被覆度が大きい。しかも過熱(スーパーヒート)された触媒表面に高濃度で供給され、温度勾配を持つ固液界面で脱水素触媒作用を受けるので、反応速度と転化率が向上する。(7)脱水素反応のワンパス転化率が外部加熱温度での平衡転化率を凌駕する(ΔG>0の実現)。実際、連続法操作において平衡転化率を越える結果が得られた。(8)このような液膜型脱水素反応の特徴が現れるのは、過熱された触媒活性サイトと沸点にある液相との温度勾配が反応生成物の脱離過程とカップルし、反応を平衡支配でなく速度支配にするため、と考えられる。(9)ベクトル量である不可逆過程の間で現れる干渉現象は、熱拡散など、多くの事例が知られており、プレゴジンの理論的解析(1947年)がある。 本研究を通して、液膜状態での2-プロパノール、シクロヘキサン類脱水素触媒作用の特質が良く理解された、と考える。
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