研究概要 |
テトラメトキシシラン(TMOS)とアルキル基を有する有機シランとの混合物を前駆体として,ゾル-ゲル法により生成する有機-無機ハイブリッドゲル中へリパーゼを包括すると,固定化標品の活性及び熱安定性が著しく向上する.さらに,ゲルの生成場をW/0マイクロエマルション中や珪藻土などの担体表面上とすることによって,得られる固定化標品の一層の性能向上が達成される.テスト反応には,本年度は酪酸と(±)ーメントールからのエステル合成を取り上げた.その結果,以下に列記する知見を得た. (1)酪酸と(±)ーメントールからのエステル合成における固定化リパーゼの反応特性には,昨年度まで検討した酪酸とイソアミルアルコールからのエステル合成の場合と比較すると,最適な有機シランの種類,有機シランとTMOSからなる混合物の添加量および配合モル比などの最適値に関して,いくつかの相違性が認められた.ただし,本反応系においても包括リパーゼの耐熱性は20-30℃高温側にシフトした. (2)常温における包括リパーゼの活性増大は,(1)疎水性ゲルと有機溶媒中の基質の親和性の向上,および(2)ゲルのアルキル基とリパーゼ分子の活性中心付近の疎水性アミノ酸残基間の(疎水性)相互作用などによってもたらされていることが示唆された. (3)熟安定性の向上の理由としては,昨年度,適度にタイトな有機シリカによるゲル表面近傍におけるリパーゼ分子の物理的包括による熱変性防止を挙げたが,本反応系においては,上記のリパーゼ-ゲル間の疎水的相互作用の介在ももう一つの要因として考えられた. (4)エナンチオ選択性については,常温(35℃)では包括リパーゼは付着リパーゼより低い値を与えたが,熱失活が顕著となる高温(75℃)では包括リパーゼは著しく高い値を与えた.
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