クエン酸生産糸状菌Aspergillus niger(クロコウジカビ)について、クエン酸生産関連酵素をコードする遺伝子に関する研究を進めている。本年度はNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子をクローニングして、遺伝子構造を明らかにした。最初に、A.nigerのNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼの精製を試みたが、N末端アミノ酸配列の決定は困難であった。そこで、他起源の生物で決定されている当該酵素遺伝子の共通配列(保存領域)を調べ、相当するDNAプローブを合成して、cDNAライブラリーから陽性のクローンを取得した。陽性クローンが保持するcDNAを大腸菌の当該酵素欠損変異株(グルタミン酸要求性)DEK2004株に導入して栄養要求性の相補試験を行い、形質転換体が原栄養要求性となることを確認した。また、当該形質転換体をM9最少培地にして生育させた場合にNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性が検出された。以上より、取得したcDNAがNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードしていることを確認した。当該cDNAは、1494bpの塩基対より成り498アミノ酸から成るタンパク質をコードしており、アミノ酸レベルでは酵母のNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼと72.6%、ラット、ブタ心臓、ダイズのものと68.0〜66.0%の相同性が認められた。さらに、取得したcDNAをプローブとして染色体DNAライブラリーから約7kbpの染色体断片を取得し、その中に含まれるNADP-イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードする領域約3kbpの全塩基配列を決定した。構造遺伝子中には49〜241bpから成るイントロン7個が存在し、開始コドンより上流485bpおよび592bpにはCAAT配列、450bpにはTATA配列と類似する配列が存在した。
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