有害微生物の生存制御は、食品や医薬品、環境などの分野で極めて重要な問題である。加熱などの殺滅処理によって微生物細胞は可逆的または不可逆的な損傷を蒙り、その生死はその後の損傷回復能力に依存する。この回復期間にいわゆるストレス応答が起こり、ストレス蛋白質が誘導合成される。2年の助成期間中に行った研究成果は以下の通りである。 1.細胞内蛋白質動態 大腸菌の加熱処理により、細胞内可溶性蛋白質が変性、不溶化し、一部は凝集沈降したが、この沈降画分のうち尿素で可溶化する蛋白質量が増加した。この蛋白質のうち一部は細胞膜と相互作用し、さらに一部は細胞外へ排出されることが示唆された。この現象は一般の蛋白以外に、β-ガラクトシダーゼの活性およびそれに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングでも同様な傾向を示した。この排出がエネルギー依存性であることが示唆されたので、加熱培地を緩衡液から栄養培地に変更したところ、より顕著な結果が得られた。 2.15kDa熱ショック蛋白質の精製とその大量発現株、欠損株の作製 上の凝集沈降画分には15kDa熱ショック蛋白質が局在することをすでに報告しているが、この役割を追求するために、分離・精製を行った。さらにそれをもとに遺伝子のクローニングを行い、この蛋白質の大量発現株を作製した。また遺伝子破壊による欠損株も作製中である。これらの株の性質については今後検討の予定である。 3.細胞質膜機能の熱損傷機構解析 変性蛋白質の排出に関連して細胞質膜機能の熱損傷について検討した。NADH脱水素酵素の特異的な失活パターンが得られた。
|