研究概要 |
今年度は主に,捕集地点での粒子状物質の特徴やその長期的変化を知るのに好都合な,空調設備バグフィルター捕集試料を用いて,状態別分離条件と無機成分の系統的状態分析法を研究した。即ち,まずシクロヘキサンを溶媒に用いて抽出条件を検討して,有機溶媒可溶性成分を抽出除去した。残留物について,水処理及び酸処理の条件を検討した結果,それぞれ水及び0.1M以上の塩酸で,20分間処理すれば,水溶性成分,酸可溶性成分を抽出分離できること,また,0.1M塩酸による20分間の処理なら,マグネタイトやヘマタイトの溶解損失が無視できることが分かった.分離した水溶性・酸可溶性成分のICP発光定量により,カルシウム,ナトリウム,鉄,亜鉛,鉛など多数の元素の存在状態についての情報が得られることが分かった.さらに,残留物を重液分離したフラクションのX線回折分析により,光化学反応の触媒となると言われているヘマタイトやマグネタイト,及び土壌起源と推定される石英や斜長石が定量できた。また,酸処理残留物の一部を熱重量測定することにより,有害物質を吸着したり触媒作用をする元素状炭素を,有機物炭素と区別して定量できる可能性が得られた。また,従来標準試料の調製が煩雑で応用が限定されていた大気粒子状物質の蛍光X線分析のための標準試料の簡易作製法を開発した。この方法を上述の系統的状態別分離法と組み合わせることにより,系統的な状態分析法を設計できると期待される.さらに,短期間の汚染状況の把握に適した大気用多点ロ-ボリューム・サンプラーによる大気粒子状物質の捕集実験も行い,状態分析に適合したメンブランフィルターを用いて,微粒と粗粒を分けて系統的分析に必要な試料を採取する条件を明らかにした。
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