極低温振動分光法を用いて有機固体の放射線効果を調べるために行った研究成果として、 1.マラン散乱測定用クライオスタットの改良を行った。これは極低温照射試料を温度(液体ヘリウム)を上昇させないままクライオスタットに装着させるための変更であり、これによってマラン散乱測定用試料は常時極低温に保つことが可能になった。 2.極低温ガンマ線長時間照射用ジュワ-の製作をした。これは液体ヘリウム温度で20〜30時間ガンマ線を試料に照射するためのものである。これによって放射線照射によって生成する水素分子などの分子種やラジカル種の、極低温振動分光法による測定ができるようになったばかりでなく、他の測定方法、たとえばESRや分光吸収測定または蛍光試料の照射が可能になり、広い研究分野が開拓できるようになった。 3.有機固体中に生成する分子種、特に水素分子の極低温における生成に特異性がみつかった。オルト/パラ水素比が通常の比より著しく小さく、パラ水素の選択的生成が明かになった。また、有機固体マトリックスの分子間振動モードが、新たに生成した水素分子により擾乱される様子が明かになった。 4.機能性分子であるフラーレンのアニオンがマトリックスとどのような相互作用をするかを振動分光法を用いて調べるために、まずその物性についてESR、分光吸収特性を詳しく調べた。現在までに水溶性フラーレンアニオンの分光・磁気特性が明かになった。
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