光酸発生剤としてリソグラフィーに用いられているジフェニルヨードニウム塩およびトリフェニルスルホニウム塩の光分解反応の機構については多くの研究が報告されており、励起状態からのC-I結合あるいはC-S結合の切断を経る酸発生機構が明らかにされている。一方、高エネルギービーム誘起反応については、系統的な研究がなされていない。本研究では、リソグラフィーの高解像度化を目指して、電子線やγ線によるビーム誘起反応について研究を行った。電子線やγ線照射によって誘起される反応の機構は光分解のそれとは異なり、溶媒や添加物より生成する様々な活性種との反応によりブレーンステズ酸、カルボカチオンまたはラジカルカチオンを生成する。水溶性のジフェニルヨードニウムクロライドを用いて、水溶液のパルスラジオリシスにより、水和電子やOHラジカルと塩との反応によるブレーンステズ酸発生の機構が明らかになった。また、γ線分解によるブレーンステズ酸のG値や水和電子による塩の一電子還元反応の速度定数を求めた。塩化メチレン溶液のパルスラジオリシスでは、多環芳香族化合物やジフェニルポリエンのジフェニルヨードニウム塩による一電子酸化反応について検討を行った。これらの比較的酸化電位の低い溶質が塩により速やかにラジカルカチオンに酸化される事が明らかになった。ポリ(α-メチルスチレン)のジフェニルヨードニウム塩による架橋反応については、パルスラジオリシスによりポリマーカチオンの生成過程を検討した。また、生成する酸の拡散による解像度の低下を防ぐために、ポリスチレンスルホン酸のような高分子電解質を対アニオンとする塩の合成を行った。
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