研究概要 |
本課題研究では、放射線による生体損傷機構を化学反応性に基づき理解することを目的として、5-置換ウラシルの反応性に及ぼす置換基効果に関する実験的ならびに理論的研究を実施している。平成7年度は、放射線の間接作用に基づくピリミジン塩基損傷の化学反応様式を明らかにするために、水の放射線分解によって生成するヒドロキシルラジカルに対する5-置換ウラシルの反応性、およびそれらから誘導されるラジカル中間体の反応性について構造論的に研究し、下記の知見を得た。 (1)5-置換ウラシルのC(5)-C(6)二重結合へのヒドロキシルラジカルの付加反応について、付加位置選択性に及ぼす置換基効果を構造論的に明らかにするため、ヒドロキシルラジカルの付加によって生じる中間体ラジカルの過渡吸収スペクトルを測定し、それらの動的挙動を調べた。また、それぞれN,N,N′,N′-テトラメチル-p-フェニレンジアミンおよびテトラニトロメタンとの酸化還元反応を利用して、5-ylおよび6-ylラジカル中間体の生成G値を定量した。この結果、ヒドロキシルラジカルの付加位置選択性は5-置換基の種類によって顕著に変化することを実験的に示した。 (2)6-ylラジカル中間体からの5-置換基(X)脱離反応を経て生成する5-オキシルラジカルの動的挙動をパルスラジオリシス法によって調べるとともに、最終生成物のイソバルビツール酸の生成G値を定量し、5-置換基脱離反応機構を明らかにした。 (3)パルスラジオリシスおよび定常照射実験で得られたデータに基づき、構造-反応性相関を検討し、5-置換ウラシルのラジカル反応性に及ぼす5-置換基効果を理論有機化学的に明らかにした。
|