合成実験は、硝酸バリウムが溶融しながら分解する時に生成する酸化バリウムと酸化窒素が非常に活性なため、圧力容器としてハステロイX製の高温耐腐食性オートクレーブを用い、試料混合物をアルミナるつぼに入れて行った。硝酸バリウムとCuOの混合比をBa_2Cu_3O_<5+d>の等モル比よりも硝酸バリウムがやや過剰の1:1から3:1まで変化させ、硝酸バリウムの融点である591℃以上の700℃で反応させた。反応は圧力容器のガス抜きにより進行することになるので、ガス抜きの条件を一定速度とした場合や、36時間保持後に一気に抜く方法などを試みた。実験結果はどの混合比の場合も黒色の板状結晶が生成しており、粉末X線回折試験ではBa_2Cu_3O_<5+d>と硝酸バリウムの存在が確認された。硝酸バリウムは無色透明の結晶であることや、黒色結晶のEDSの組成分析の結果も合わせ、それらはBa_2Cu_3O_<5+d>であることがわかった。黒色結晶は最大で0.5mmを越えるものが得られた。大型結晶は、ガス抜きを十分に行って硝酸バリウムの分解を進めた実験であるが、それでも硝酸バリウムが残留している中に存在する傾向がみられた。この単結晶を硝酸バリウムフラックスから純粋に取り出す方法を種々検討しているが、現在化学的な方法ではうまくゆかず、機械的方法によっている。この結晶については正方晶と斜方晶の報告があるが、結晶成長面が菱形形状をしめすことから斜方晶の可能性が高い。この結晶のマイクロビッカース硬さは方解石程度であり、また熱分析の結果では890付近で吸熱と減量が観測されるので、BaCuO2とCuOへの分解が起こっていると考えられる。
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