硝酸バリウムとCuOをBaOとCuOとの比で、2:3からBaO過剰の混合物を700℃付近で高温圧力容器を用いて反応させると、容易にBa_2Cu_3O_<5+d>が生成した。この結晶は未反応の硝酸バリウム中に分散して存在しているように思われるが、水分の存在によって容易に変質するため、硝酸バリウムのみを溶解して単離する方法を検討したが、これまでの結果では成功しなかった。物理的単離法で得られた結晶についてはすでにマイクロビッカース硬度を測定し、値は方解石程度であることを示した。本研究の最終目標は、硝酸バリウムフラックスを利用することによって、高温超伝導酸化物であるYBa_2Cu_3O_x斜方晶結晶を直接合成できるかどうかを検討することである。それに向かって、次いで硝酸バリウムとY_2O_3との高温圧力容器を利用した反応を調べた。その結果、この系では硝酸バリウムの割合を増加させても未反応のY_2O_3が残留し、硝酸バリウムとCuOとの系よりも反応しにくいことが分かった。硝酸バリウムと、Y_2O_3、CuOの比を容易イオン比で2:1:3として高温高圧容器を用い、690℃での反応を試みた。この系では、圧力容器からガス抜きを行わないで690℃、40時間保持後冷却した場合と、ガス抜きをしながら0.5MPaの圧力を保持した実験ではY_2Cu_2O_5が主要生成物であり、YBa_2Cu_3O_xは生成しなかった。硝酸バリウムを分解させながら、690℃、大気圧である0.1MPaで保持した場合には、硝酸バリウム、Y_2O_3、Ba_2Cu_3O_<5+d>も共存するが、YBa_2Cu_3O_xの生成に成功した。TEMによる観察の結果、生成したYBa_2Cu_3O_x結晶には双晶構造は認められなかった。YBa_2Cu_3O_xを900℃で合成した後500℃、酸素気流中でアニールした試料では双晶構造が観察されることから、本実験で得られたYBa_2Cu_3O_x結晶は斜方晶として直接生成し無双晶化たものと考えられた。
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