交付申請書に記した計画に従って、まず各種配位子とクロロシクロオクタジエンロジウムからロジウム錯体を調製し、それらを触媒に用いてスチレンの無水安息香酸と分子状水素によるヒドロベンゾイル化反応について系統的に検討した。その結果、目的生成物であるケトンの収率は、錯体の配位子の種類とロジウムに対する比、副生する安息香酸のトラップのための塩基の種類、および反応温度に大きく依存することがわかった。配位子としては、トリフェニルホスファイト等の芳香族ホスファイトが適しており、ロジウムに対して2当量用いた場合に反応速度の極大が見られた。また、塩基としては、ジイソプロピルエチルアミンのような嵩高い3級アミンが適しており、温度は60-70℃程度で最大収率が得られた。これまでに得られた最適条件では、40mol/mol・h^<-1>の触媒効率が達成された。なお、水素の圧力は、常圧で充分であった。次いで、無水安息香酸あるいはスチレンのベンゼン環に置換基を導入した基質を用いて反応を行ったところ、無置換の基質の最適条件で効率よく反応が進行し、いずれの場合もイソ体優先的にケトン生成物を与えた。スチレンに代えて脂肪族アルケンを用いて反応を行った場合には、生成物収率は低下するものの、反応の進行が認められた。また、反応機構に関する知見を得る目的で、水素に代えて重水素を用いて無水安息香酸とスチレンの反応を行ったところ、生成物のみならず、回収したスチレンのαおよびβ両炭素に重水素の導入が見られ、反応の初期段階でのスチレンと触媒活性種であるヒドリドロジウム錯体との反応が可逆であることが示唆された。
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