本研究はプラズマによって生成する無機ガスからの原子状活性種に加えて有機分子由来の活性種をも最大限に活用することにより新たな有機化学反応、特に種々の炭素骨格上へのヘテロ原子の一段階直接導入のための手法を開発、確立することを目的とした。従来、このような高エネルギー条件下での反応は選択性に乏しいという見解が一般的であったが、本研究はプラズマと液相との相互作用およびそれから誘起される溶液内反応をも積極的に活用することにより活性種の反応性の制御を実現しようとしたものである。 初年度は芳香族炭化水素を対象として含酸素官能基の導入反応を検討した。高周波プラズマ中において酸素ガス共存下でアルキルベンゼン類は容易に酸化されるが、このとき環の水酸化によるアルキルフェノール類の生成とアルキル側鎖の酸化によるアルキルおよびカルボニル類の生成が競争的に進行した。しかし側鎖上に二重結合がある場合にはそこでのエポキシ化反応が優先的に起こり、環の水酸化は起こらなかった。 次年度はプラズマ-溶液相互作用で誘起される溶液内反応の開発を進めた。水溶液上でのグロー放電電解により溶液中に溶解したフェノール類は酸化的分解を受ける。その酸化経路を詳しく検討した。水の解離で生成した水酸ラジカルが芳香環を攻撃し、まずカテコール、ヒドロキノンが生成し、さらにそれらからピロガロール、ヒドロキシヒドロキノンが誘導されたのち芳香環の開裂が起こり、種々の二塩基酸を経て最終的に二酸化炭素と水になることが推定された。アセトニトリル溶液の場合には溶媒分子の解離によりメチルおよびシアノラジカルが生成し、それらが芳香環を攻撃することでトルエン、ベンゾニトリル類が生成した。
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