含フッ素有機過酸化物をキ-マテリアルとし、過酸化物に由来するフルオロアルキル基及びフルオロアルキレン基を種々の基質に直接炭素-炭素結合により導入させることにより、高選択的な抗エイズウイルス活性能を有する新規な一連のフッ素系生理活性物質を合成することを目的とし、特に構造及び界面化学特性と抗エイズ活性との関係をより明確なものとさせ、新規な高分子系含フッ素抗エイズ薬としての新しい分野を構築させることを目的とした。 その結果、含フッ素有機過酸化物及びポリメリックな含フッ素有機過酸化物を用いることによりフルオロアルキル基及びフルオロアルキレン基が炭素-炭素結合で直接導入されたカルボキシル基、スルホン酸基さらにはカチオンセグメント含有オリゴマー類の合成にそれぞれ成功した。 これら新規に合成されたオリゴマー類の生理活性について検討を行った。その結果、高選択的な抗エイズ活性を有することが見いだされた。特に興味深いことに、これら薬剤の構造と抗エイズ活性との間に相関関係があることが見いだされた。具体的には、これら薬剤中のフルオロアルキル基の鎖長、さらにはこれら薬剤の油溶性が抗エイズ活性に顕著に影響することが明確化され、特にシリコンセグメンを導入させることにより活性が著しく高まることがわかった。さらに、スルホン酸基を有する含フッ素オリゴマー類においては、従来高分子系抗エイズ薬として有用と考えられていたデキストラン硫酸より約10倍活性が高まるという興味深い知見が得られた。このようなアニオン性セグメントではなく、逆にカチオン性セグメントを有する含フッ素オリゴマーにおいては活性は見られず、逆に抗菌活性を示すことが見いだされた。 一方、新規に合成されたフルオロアルキル基含有オリゴマー類は、高分子量化合物でありながら水以外に汎用の有機溶剤にも可溶となり、これら溶剤の表面張力を従来のフッ素系低分子界面活性剤とほぼ同等レベルにまで低下させることができ、さらにはオリゴメリックな界面活性剤でありながら臨界ミセル形成濃度(CMC)に相当する明確なbreak pointを示すことが高分子系化合物において初めて見いだされた。これは、含フッ素オリゴマーがミセルもくしはベシクルに相当する分子集合体を形成することを示唆するものであり、特に興味深いことに、抗エイズウイルス活性の発現にこれら分子集合体が一部関与することが示唆された。 このように、本研究により開発された含フッ素オリゴマー類は、抗エイズウイルス活性等の生理活性を有した新規なフッ素系機能性材料としての新たな分野を構築しうるものとして大いに期待できる。
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