タンパク質を位置選択的に切断したり、あるいは側鎖を変換する人工酵素が開発されれば、新規有用タンパク質の合成など、様々な応用が期待できる。本研究において、以下の点を新たに見いだした。 (1)希土類金属イオンが温和な条件下でペプチドおよびタンパク質の加水分解を促進し、人工酵素の活性部位に応用可能であることを明かにした。特にCe(IV)イオンの触媒活性が著しく高く、pH7-8の中性付近で最大活性を示した。以上の結果より、希土類金属イオンは人工ペプチダーゼの触媒活性部位に応用するのに適した性質を有していることが明かとなった。さらに、オボアルブミン(MW45000)の切断を検討した。Pr(III)イオンを用いた場合に切断が見られ、反応時間とともに分解生成物が増加した。これは、タンパク質を中性条件で非酵素的に加水分解した初めての例である。今後、精密な触媒設計を行なうことによって、位置選択的にタンパク質を加水分解する人工酵素の実現につながると考えられる。 (2)次に、アミノ酸残基の化学的変換を検討した。グリシンのα位に、ホルムアルデヒドあるいはアセトアルデヒドを求電子攻撃させると、セリンあるいはトレオニンに変換できる。この反応は、金属イオンにキレート配位したグリシンについて、高pHでのみ進行することが知られている。これを種々のアミノ酸残基を有するタンパク質に応用可能とするために、より温和な条件での反応を検討した。最近ランタニド化合物がアルデヒドを活性化し、水溶液中での有機化学反応に有用であることが見いだされている。そこで、ランタニド化合物を用いて以上の反応を試みたところ、pH8、50℃という温和な条件下で、グリシンに側鎖を導入することができた。ランタニド化合物を用いない場合には、反応はほとんど進行しない。この反応によって、タンパク質分子中のアミノ酸残基を変換し、新たなタンパク質創製への応用が期待できる。
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