研究概要 |
水-有機2相系において、塩化N-セチルピリジニウム(CPC)とKSCNを用いてメタクリル酸メチル(MMA)の光重合を行うとオリゴマーが生成する。このオリゴマーはl,4-ジヒドロピリジン末端を有すると考えられ、補酵素NADHと類似の還元性が期待される。本研究では、水-n-ヘキサン2相系及び水-酢酸エチル2相系でオリゴマーの合成法について詳細に検討した。 オリゴマーの合成は、100Wの高圧水銀灯を備えた内部照射型光反応装置を用い、一定流速の窒素による通気攪拌をしながら303Kで行った。反応終了後、メタノールを加えてポリマー成分を沈殿させ、それを吸引ろ過により採取した。ろ液はクロロホルム抽出を行い、抽出液を濃縮して粗オリゴマーを採取した。粗オリゴマーはシリカゲルカラムで精製し、純粋なオリゴマーとした。 種々の実験の結果、次のようなオリゴマーの生成機構が示唆された。水相では、CPCとKSCNとから直ちにチオシアン化N-セチルピリジニウム(CPT)が生成し、これが有機相に移動する。このとき有機相の溶媒として酢酸エチルを用いると、その適当な極性(疎水性)のためCPTが有機相へ移動しやすく、有機相では電荷移動(CT)錯体を形成する。この錯体は320nm付近にCT吸収帯を有するので、紫外線照射により急速に分解して、チオシアノラジカルとピリジニルラジカルを生成する。前者からMMAのラジカル重合が開始され、安定な後者のラジカルによって重合は停止し、オリゴマーを生成する。有機相の溶媒として極性の小さいn-ヘキサンを用いると、CPTが有機相へ移動しにくく、オリゴメリゼーションは短時間で終わり、オリゴマーは少量しか得られず、代わりにオリゴマーから光開始された高分子量のポリマーが得られることがわかった。
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