ヘム蛋白質としてはじめにミオグロビン(Mb)を選択し、これにPEOを化学修飾した、修飾PEOの分子量と、ヘム蛋白質へのPEO導入率の異なる一連の試料を合成し、その耐熱性を評価した結果、これらは耐熱性を支配する主要因子ではなく、溶媒のPEO分子量が最も顕著に耐熱性に影響していることを明らかにした。溶媒PEOの分子量を低下させてゆくと、PEO修飾ミオグロビンの高温側でのコンホメーション変化が大きくなり、還元体の熱安定性は低下し、より短時間で劣化した。 次に、PEOオリゴマーに無機塩を溶解させ、各温度のイオン伝導度を測定し、耐熱性との相関を調べた。その結果、優れたイオン伝導度を示す系では耐熱性が低下する傾向が認められた。イオン伝導度が優れている系は一般的に溶解している物質の拡散係数が大きいので、系内での分子運動が活発であると言える。これが、タンパク質構造の摂動を引き起こすためであろうと考察された。 次に、種々の高分子溶媒中のPEO-Mbのα-ヘリックス含量とヘム近傍の環境に及ぼす温度の効果をCDスペクトル測定、可視吸収スペクトル測定より詳細に解析し、コンホメーションに及ぼす溶媒種の影響を調べた。その結果、昇温にともないタンパク質のコンフォメーションは乱れ、変性するものの、PEO中での変化は可逆的で降温により回復することが認められた。また、100℃以上でも活性中心のヘム錯体はグロビン内に留まり、酸化還元されていることを分光学的に確認した。以上のことから、ヘムタンパク質の耐熱性発現にはPEOを溶媒として用いることが重要で、しかも、ある程度以上の分子量が望ましいことが明かとなった。
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