1.時間分解光導波路測定法の開発 強誘電性液晶はマイクロ秒域のスイッチング速度をもつため、これに十分対応できる光導波路測定法(TROWS)の開発を行った。TROWSによって得られる過渡状態の光導波パターンを理論解析することにより、数マイクロメートルの厚さをもつ液晶層の誘電率異方性を4桁以上の精度で測定し、膜厚をナノメートルの精度で評価することができた。しかもナノ秒域の時間分解能で光導波パターンを測定することにより、高速過渡現象を追跡し、液晶の過渡的な内部構造を解析する能力をもつことが示された。 2.低分子ネマチック液晶のダイナミックス研究 光導波路測定装置の性能と測定結果の理論解析を実証するため、低分子ネマチック液晶の解析を行った。液晶配向系はxyz実験室系に配置された屈折率楕円体として捕らえられ、その分子座標系-abcの主値n_a、n_b、n_cおよびabc系のxyz系からのオイラー角で記述された。導波モードの時間変化に基づいて、パルス電場を加えたときの分子回転の様子を多層近似を用いて解析した。その結果、界面束縛を受けながらパラレル配向とホメオトロピック配向との間でスイッチクグする液晶分子の配向分布、ならびにその時間変化を明らかにした。 3.低分子強誘電性液晶の過渡構造の解明 低分子強誘電性液晶の静的な内部構造を屈折率異方性の測定により評価した。さらに電場反転にともなう過渡状態について、導波パターンの理論解析から、SmC^*相の内部構造とその電場配向挙動について研究した。その結果、これまで知られていなかった、BOOKSHELF→CHEVRON→BOOKSHELFというスメクチック層構造の過渡ベンディング運動を明らかにするとともに、CHEVRON構造により分割された上下2層が協同的に反対称コーン運動することにより電場反転することを示した。 高分子強誘電性液晶のスイッチング挙動の解明 低分子液晶で得られた知見をもとに高分子強誘電性液晶を研究した。その結果、高分子液晶においても過渡ベンディング運動が観測された。高分子主鎖はスメクチック層間に局在するため、側鎖メソゲン基の運動挙動には影響が少なく、側鎖メソゲン基はコヒーレントな運動モードで配向運動していることがわかった。このため、アルキル鎖を介した主鎖の束縛による回転粘性の増加にもかかわらず、低分子ネマチック液晶と同じミリ秒域で配向スイッチングすることが可能であった。これらの観測結果をもとに高分子強誘電性液晶の内部構造とメソゲン基の電場配向における運動モードについて考察した。
|