研究概要 |
三酢酸セルロース(CTA、置換度2.9)と二酢酸セルロース(CDA、置換度2.4)がトリフルオロ酢酸(TFA)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中で示す液晶形成能とその発現機構を、示差屈折計および動的光散乱法で調べ、次のような新たな知見を得た。 1.液晶形成臨界濃度v_2(wt%)は、分子量がほぼ同一のCTAとCDAでは、TFAとDMAc中で異なる挙動を示した。すなわち、TFA中ではv_2(CTA、24〜26%)<v_2(CDA)だが、DMAc中ではv_2(CTA)>v_2(CDA、45%)となる。前者のv_2順序は従来の実験からの予想v_2(CTA)>v_2(CDA)とは逆である。 2.CTAはクロロホルム(CF)に、またCDAはテトラヒドロフラン(THF)に分子分散し、その溶解形態もランダムコイル状であり、同時に分子会合体が少量存在することが従来から知られている。しかし、これらの会合体はフィルター濾過により除去した後でも、再度、液中に発現した。これは単一分子と会合体に平衡関係が成立し、CFやTHFを用いる限り、希薄溶液を用いても会合体を含まない試料を純粋に抽出できないことを示す。 3.CTAのv_2値、すなわちv_2(TFA、24〜26%)<v_2(DMAc、50%以上)<v_2(CF、液晶形成なし)の関係は、溶媒が異なるとCTAが異なる分子形態を採ることを意味する。この分子形態の相違を、各溶媒中で得た極限粘度数[η]と回転半径R_cの実験データを用いてみみず鎖モデルで解析すると、CTAはTFA中では細くて長い剛直性のある形態、DMAc中では屈曲性が増加してやや太くて短い形態、CF中では屈曲性の大きなランダムコイル形態をとることが判った。セルロースセグメントは溶媒がCF、DMAc、TFAと変わるにつれてその剛直性を増加させ、配向性または液晶形成能を増す。この解析結果は実験事実とよく一致する。 4.CDAはDMAc中、濃度45%で液晶を作るが、希薄溶液中でも液晶形成の前駆形態と考えられる自己集合体(self assembly)およびそのゆるやかな会合体が、すでに、形成されていることが確認できた。
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