ビオローゲン、アゾベンゼンおよびニコチンアミド構造を長鎖のメチレン鎖で連結した3種の修飾シクロデキストリン(それぞれの化合物をA、B、Cと略す。)を合成した。いずれの生成物も再沈に続くカラムクロマトグラフィーによって精製した。得られた生成物はNMRおよびIRによりその構造が確認された。 Aは、NMRより数種類のビオローゲン部位のシグナルが共存しているので重水中では安定な包接錯体を形成していると推定された。さらに、NOESYスペクトルよりシクロデキストリン空洞内の水素とビオロゲン部位の水素との交差ピークが観測されたのでビオローゲン部位の包接が確認された。Aのサイクリックボルタンメトリーは可逆な2段波を示したが、第1波および第2波の電流値は理論値の1/3および1/2であった。この減少はビオローゲン部位の包接による電子移動の阻害によると説明された。さらに、水溶液中で電解還元すると溶液粘度の減少が観察された。この減少は、電解前の分子間包接による擬高分子状態がビオローゲン部位の還元による包接錯体の安定度定数の低下により低分子化したためと推定された。これは、包接現象を利用した分子集合状態を制御した初めての例である。 BについてもNMRよりアゾベンゼン部位の安定な包接錯体の形成が推定された。アゾベンゼン部位をほぼ完全なシス体にすると包接錯体の安定度は大きく低下すると予想される。光照射により繰り返しシス-トランス異性化するとそれに伴いシス体およびトランス体の溶液の粘度はそれぞれ減少、増加した。 Cは、NMRよりニコチンアミド部位の包接が推定された。サイクリックボルタンメトリーよりニコチンアミド部位の還元電流は観察されたが、相当する酸化電流は見られなかった。 今後、これらの修飾シクロデキストリンについてさらに詳細な物理化学的性質を調べ、分子構造の最適化を検討する予定である。
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