主破壊に先立つマイクロクラックの発生に伴って放出されるアコースティック・エミッション(以下AEと呼ぶ)を、多チャンネル・デジタル・オシロスコープのチャンネルを並列に使って、広帯域(DC〜5MHz)で広ダイナミック・レンジ(0.05mV〜50V)で長時間(0.4s)サンプリグして観察した。この結果、AEを観察したダイナミック・レンジの範囲では、振幅についてはべき乗則が成立することが明らかになった。さらに、最大振幅とAEウエーブトレーンのあいだにも同様の関係が成立することもあきらかになった。ただし、振幅と卓越周波数のあいだには系統的な関係が見られなかった。これがAEの固有の性質であるか、測定系の問題であるかは解決されなかった。その理由は、微少な振動であるAEを測定できる物理的に厳密な意味をもつトランシデュサーが存在しないからである。このことは長い間、AEの研究を阻むバリアーとなっており、残念ながら、本研究でも克服する方法が見つけられなかった。また、ひじょうに広帯域の測定系を使ったにもかかわらず、卓越周波数が2MHzを越えるAEは発見できなかった。これは、AEを放射するマイクロクラックに下限があり、自己相似性が破れていることを表している。また、たくさんのAEイベントを詳細に観察したにもかかわらず、大きいAEが小さいAEを引き続いて誘発するという現象は発見できなかった。このことは、AEには余震が存在しないことを表しており。地震とAEは、一直線に連続する現象ではないことがあきらかになった。つまり、自然地震とAEの類似性が暗黙の前提とされる議論がなされてきたが、類似性は振幅のべき乗則にかぎられていることがわかった。本研究の結果、AEに対する謎はさらに深まった感があり、より精力的な研究が必要であろう。
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