研究概要 |
異種細胞質に対する親和性核遺伝子(Ncc)をマッピングし、その機能を明らかにする目的で、チモフィービ系コムギの保有するタルホコムギ(Aegilops squarrosa)細胞質に対するNccを導入した4倍性コムギ(T.durum)核細胞質雑種を実験材料に解析を行い以下の結果を得た。1)Nccは配偶体支配の花粉稔性とヘミ接合での接合体の生存を支配することを明らかにした。2)Nccに強連鎖する4つのRAPDマーカーを検出し、T.durumのDゲノム染色体置換系統を利用して、これを1A染色体に位置づけた。3)Ncc近傍の染色体領域がチモフィービ系コムギにのみ保存されていること、さらにこの領域が4倍性コムギのAゲノム提供種と推定される2倍性一粒系コムギT.urartuに共通して存在することを明らかにした。4)T.timopheeviには2つの独立で同祖的なNccが存在する可能性を指摘した。5)SSCP分析によりミトコンドリアatp6-rps13領域に、PCR-制限酵素分析によりnad3-orf156領域に雑種特異的な構造多型を見出した。なお、Triticum,Aegilopsに属する46の細胞質を導入したパンコムギCSを用いて、その核と細胞質ゲノム構造を解析し、核親と異なる核ゲノムの構造多型を複数見出し、こられが戻し交配世代に完全伝達することを明らかにし、さらに1雑種系統では細胞質ゲノムが核親細胞質ゲノム型へ変換したことを示唆する結果を得た。以上の研究により、1)コムギ族における種の遺伝的隔離機構のひとつである核ゲノムと細胞質ゲノムの親和性に関与する核遺伝子のタッギングが行われ、標的となる細胞質遺伝子について新たな情報が得られた、さらに2)核細胞質雑種ゲノムに核細胞質の親和性に関与すると考えられるゲノム構造多型が存在することが明らかになった。
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