研究概要 |
果樹育種においては古くから枝変わり突然変異が実用的に利用されているが、そのメカニズムについては明らかになっていない。ところで花モモやウメの源平咲き系統は1個体中にピンク花をつける枝と白花をつける枝を持つが、これはトランスポゾンによって誘起される枝変わり突然変異と考えられる。本研究では源平咲き系統の花モモからトランスポーザブルエレメントの単離を試みるとともに、花色発現が変異する機構の解明を試みた。 花色は野生型がピンクを示し、アントシアニン合成系の構造遺伝子あるいは制御遺伝子ヘトランスポーザブルエレメントが挿入されると白くなると考えられたので、非放射性サザンブロット法により花色の異なる枝間でDNAレベルの多型の検出を試みた。本研究においてはじめて花モモのCHS、CHI、F3H、DFR、ASの各遺伝子クローンを得、プローブとして用いた。PAL,UFGT,MybならびにMyc様転写因子の各遺伝子はマーチン博士より分譲されたキンギョソウ由来のクローンを用いた。その結果CHSとDFRをプローブとした時に枝間で多型が認められた。またCHS、CHI、F3H、ASの各遺伝子はゲノム中に1ないし数コピー、PALならびにDFR遺伝子はこれらよりもややコピー数が多いと推定された。サザンブロット法で得られた多型を詳細に解析するために花モモのピンク花の花弁由来のゲノミックライブラリーを作成し遺伝子のスクリーニングを行った。DFR遺伝子については3次スクリーニングまで行い6クローンについて構造解析中である。 Prunusu属植物では分子マッピングの他には分子生物学的解析の報告が多くないが、本研究によりPrunusu属植物でも分子生物学的手法が十分適用できることが明らかになった。今後の解析により異なる枝間でのCHSとDFR遺伝子の違いが解明され、ひいてはトランスポーザブルエレメントの単離と果樹育種への応用につながるものと考える。
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