コムギの老化は老化を阻害する植物ホルモンであるサイトカイニンの減少によって始まる可能性がある。そこで先ず、コムギの生育に伴う止葉のサイトカイニン含量の変動を調べた。その含量は出穂期以降に増加し老化に伴って減少に転じたが、完全に老化した葉にも出穂期前の葉より多いサイトカイニンが残存していた。この結果はサイトカイニンの不足が老化開始の原因ではないことを示している。次に穂に含まれる老化を促進する既知の植物ホルモン類(アブシジン酸、ジャスモン酸とそのメチルエステル)の成育に伴う変動を調べた。しかしこれらの物質の量ははいずれも低く、わずかな変動を示したが、その変動と老化の間には因果関係は認められなかった。そこでコムギの第一葉を用いたクロロフィル保持試験を検定法として用い、穂に含まれる老化促進活性を調べた。その結果、穂の抽出物のヘキサン可溶性分画には強い活性が存在し、その活性は乳熟期に最大値を示すことが判明した。この結果はコムギの穂は未知の老化促進物質を生成し、それが個体の老化の引き金となっていることを示唆している。50kgの乳熟期の穂を採取し、そこからの活性物質の純化を試みている。この活性物質は紫外部吸光を全く持たないことから、生理活性物質としては未知の物であると考えられる。8段階の精製操作により、活性物質の重量は1mg程になったが、未だ純品にはなっていない。不純物が含まれているこの段階でも、その重量あたりの比活性はアブシジン酸やジャスモン酸メチルエステルより高いものであった。
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