登熱期におけるダイズ子実の内部においては、貯蔵体のタンパク質・油脂の蓄積と共に、顕著な炭水化物の消長が認められる。特に登熱後半においては、蓄積されたデンプンの分解と可溶性糖類の増加、そして黄化開始後の可溶性糖類の激減が特徴的である。ダイズ子実の成長停止が、このような物質代謝の変化を伴っていることから、種々条件下における成長停止時期の違いとこれらの物質代謝の変動を比較・検討することにより、その機構について新たな知見を得ることを目的として研究を行ってきた。 本年度においては、圃場栽培したダイズ(品種コガネダイズ)を用いて、子実肥大期に遮光処理を行った。その結果、登熱期間が延長し、個体あたりの子実総数は減少したが、子実1個あたりの登熱期間は延長し、子実の乾物増加期間が長くなった。莢と子実のクロロフィル含量および含水量について、登熱期間を通して比較した結果、遮光による子実の乾物増加期間の延長に伴い、クロロフィル含量と含水量ともに完熟期における低下開始時期が遅延した。子実におけるデンプン蓄積はクロロプラストを主とする色素体であることから、ダイズにおいては、他のデンプンを貯蔵産物とする種子とは異なり、クロロフィルの分解に先んじてデンプンの分解が起こるという興味深い結果が得られた。このデンプン含量の減少は、糖含量の推移と一定の関係にあるわけではなく、したがって、種子の物質蓄積における単なる材料の一時的プールとして機能しているのではないと考えられ、登熱過程における何らかの役割を担っている可能性があると結論された。
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