作物のプロトプラスト融合における不和合性に関する細胞生物学的研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07660018
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 三宅 博 名古屋大学, 農学部, 助教授 (60134798)
• キーワード: オルガネラ / 細胞融合 / C_3植物 / C_4植物 / 微細構造 / プロトプラスト / 不和合性

研究概要

昨年までのタバコ葉肉プロトプラストとダイズ培養細胞由来プロトプラストの融合実験において、遠縁種間の融合においても不和合性反応は直ちに起こるものではなく、オルガネラの脱落は分裂の進行に伴って徐々に起こることが明らかになった。そこでさらにC_3植物であるケイトウの培養細胞由来プロトプラストと、C_4植物であるハゲイトウの葉肉プロトプラストの融合実験を行った。2細胞性の雑種細胞を得るには、0.4Mのソルビトールと2Mの塩化カルシウムを含む溶液中で、交流電場(200V/cm、0.5MHz)で30秒間プロトプラストを配列させた後、1600V/cmの矩形直流パルスで40μ秒間処理して融合させる方法が最適であった。雑種細胞は、ハゲイトウの葉肉プロトプラスト由来の葉緑体と、ケイトウの培養細胞プロトプラスト由来の密な白色の細胞質が共存することより同定できた。プロトプラストを培養したところ、ケイトウのプロトプラストは柔らかいカルスを形成したが、ハゲイトウのプロトプラストは分裂活性が低く、カルスを形成しなかった。従って、倍地上に現れた硬いカルスを分離することにより、人為的選抜を行うことなく雑種カルスを分離することができた。カルスの雑種性は、酸性フォスファターゼのアイソザイムパターンより確認することができた。カルスの表面微細構造を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ケイトウプロトプラスト由来の柔らかいカルスでは、表面に膜状構造が観察されたが、雑種カルスではほとんど認められなかった。融合直後の雑種細胞の内部構造を透過型電子顕微鏡で観察したところ、プラスチドの変形や液胞中へのオルガネラの取り込みなど、交雑不和合性で知られているような不和合性反応の微候が認められた。しかし雑種カルスになると細胞内部構造に不和合性反応は認められなかった。現在培養条件を検討し、雑種カルスからの植物体再生を試みている。

研究成果

• [文献書誌] Suzuki,K.: "Anatomy and ultrastructure of the developing radicle in rice embryos : an approach to the study of somatic embryogeny." Japanese Journal of Crop Science. 65. 119-130 (1996)
• [文献書誌] Iriawati: "Ultrastructural studies on the fusion product between protoplasts of mung bean and adzuki bean." Japanese Journal of Crop Science. 65. 330-339 (1996)
• [文献書誌] Nishioka,D.: "Suppression of granal development and accumulation of Rubisco in different bundle sheath chloroplasts of the C_4 succulent Plant Portulaca grandiflora." Annals of Botany. 77. 629-637 (1996)
• [文献書誌] Iriawati: "Effects of iodoacetamide on the fine structure of azuki bean protoplast and its fusion product." Japanese Journal of Crop Science. 65. 532-539 (1996)
• [文献書誌] 三宅 博: "C_4植物の葉における構造と機能の関係" 電子顕微鏡. 30. 222-228 (1996)
• [文献書誌] Mastuti,R.: "Production of intergeneric hybrid calli from C_3 and C_4 species of Amaranthaceae through protoplast fusion" Japanese Journal of Crop Science. (発表予定).
• [文献書誌] 谷口 武: "植物保護の事典" 朝倉書店(発表予定),