環境条件が水稲の花器の発育におよぼす影響を解析するための手始めとして、正常な環境下における幼穂の発育について組織化学的観察を行い以下の結果を得た。 1)止葉の葉耳の位置と幼穂先端までの距離を尺度として、発育初期から開花にいたるまでの幼穂の発育段階を記載し、これを以後の研究の基準とする方式を明確にした。 2)上記によって規定された各発育段階の雄ずいの切片を作成し、葯発育の初期から花粉が完成するまでの雄ずいの組織形成の過程を明らかにするとともに、その過程で糖質、タンパク質および核質が、いかに分布消長するかを明確にした。 ついで幼穂形成の各段階に低温処理を行い、雄ずいの発育にいかなる影響がおよぶかを組織化学的に検討し以下の結果を得た。 1)低温は葯の減数分裂期から葯の裂開期までの各段階に影響をおよぼし、それぞれ組織発生的あるいは組織化学的に特異な経過をへて、最終的に葯および花粉の破壊あるいは退化を通じて不稔をもたらした。 2)すなわち低温の影響の現れ方には、(ア)従来からいわれているタペ-ト肥大の外に、(イ)タペ-ト細胞、花粉母細胞あるいは小胞子の核異常、(イ)タペ-ト細胞、花粉母細胞あるいは小胞子の核異常、(ウ)エンドテシウムにおける多糖類の異常蓄積、(エ)花粉の生長停止など、4つのタイプがあり、発生的には(イ)、(ア)、(ウ)、(エ)の順に起こるものと想定された。
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