本研究では低温による水稲の異常穎花の発生にしょうてんをしぼり、従来ほとんど試みられていない組織化学的手法によって、障害型冷害の新たな解決の糸口を探ろうとした。 1.まず正常条件下で進行する水稲雄ずいの発育を9つの発育段階に分け、各発育段階の組織化学的特性を詳細に明らかにした。またこれら発育段階と葉耳間長との対応関係を対象品種について明らかにし、非破壊的に発育段階を特定する基準を確立した。 2.上記基準によって葯分化の初期と考えられる植物体を低温処理し、低温が穎花およびその内の雄ずいの発育におよぼす影響を調べた。この場合、低温によって生ずる退化穎花、不稔籾の1穂上の発生位置をまず確認し、それらの多発領域の穎花の発育を組織化学的に追究した。その結果、正常のものと比較して不稔籾の発生経過には、従来記載のない2タイプを含め、4つの異常タイプのあることが明らかにされた。さらに花糸の組織の低温による障害や、退化穎花の発生過程についても、組織学的ならびに組織化学的に初めてその詳細を明らかにした。 3.窒素肥料の多投が冷害を助長するという事実を考慮し、窒素の施用量を変えて育てた水稲を低温処理し、異常穎花の発生を観察した。その結果、退化穎花、不稔籾のいずれもが、窒素の多用によって増加した。この場合、前記した4つのタイプのうちの1つ、すなわち雄ずい諸組織に多糖類が異常に蓄積するタイプ、がとくに多発するのが認められ、窒素の多用が、体内の炭水化物代謝を介して、障害に結びつく可能性が示唆された。
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