本研究では、病原ウイルスの純化が困難なために現在まで抗血清が作製されていない難純化ウイルスを対象として、まずウイルスゲノムに対応した複製型二本鎖RNAをウイルス感染植物から抽出し、これを用いて病原ウイルスの遺伝子に対応したcDNAのクローニングを行うことを第一の目標とした。さらに、ウイルス遺伝子のコードするタンパク質に対応した塩基配列を決定し、大腸菌に融合タンパク質としてウイルスのタンパク質を産生させ、抗血清を作製することを最終目的としている。平成8年度では、果樹ではカンキツトリステザウイルス(CTV)、イチゴではイチゴマイルドイエロ-エッジウイルス(SMYEV)、およびキュウリモザイクウイルス(CMV)を取り上げて実験を行い、以下のような知見が得られた。 1.CTVでは複製型二本鎖RNAからCTV-RNAのクローニングに成功した。得られたcDNAクローンのひとつは外被タンパク質を産生する能力をもっていた。以上の点から、複製型二本鎖RNAを用いた植物ウイルス遺伝子のクローニングが実用的技法であることは証明された。CTVについては本法を用いてさらに塩基配列の決定を進め、現在は弱毒および強毒ウイルスの比較により病原性決定遺伝子の解析を行っている。 2.CMVのサテライトRNA由来の複製型二本鎖RNAを解析中に、サテライトRNAの多量体が見いだされ、これはCMVのRNAポリメラーゼのテンペレートスイッチング機構により形成されることが明らかとなった。 3.SMYEVは、いまだにウイルス粒子の形態すら未確認であるため、接木試験で発病した多数のイチゴから複製型二本鎖RNAを抽出し、cDNAのクローニングに成功し、このcDNAの塩基配列を決定した。この結果、日本では性状不明の2種のイチゴのウイルスがPCR法で検出可能となった。
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